Completion: 2024
Type: Residential
Structure: Wood and Steel
Site Area: 232.44㎡
Total Floor Area: 114.68㎡
Design Team: Go Kawakita
Structural Design:
Tetsuya Tanaka Structural Engineers
Photo: Satoshi Asakawa, Akira Nakamura
自然が残され、丁寧に歴史が重ねられたコミュニティに佇む、築75年の家があった。建築家自邸の古民家改修プロジェクトである。
当該建築を含む数軒から構成されるこの街区は、宅地整理がされた100年ほど前から変わらぬ姿を残している。3世代にわたり住み継がれ、幼稚園から中学校まで同窓の間柄である。土地の魅力に引きつけられ、ここでの生活を大切にしていることが伺われる。一方で、世代交代とともに都市中心部への移り住みが進み、当該街区が抱える法的制限による建築的循環の起こり難さから“都市部における過疎化”が進行している。
新たにこの小さなコミュニティの一部となり、蓄積された土地の愛着を未来へつなげることはできないだろうか。
既存建築の歴史を塗り替える“住み替え”ではなく、未来の住人が見る先人の記憶としての改修計画を目指した。途切れることのないこの土地と建築の歴史の中で本計画がかかわる時間はほんの一瞬である。建築、周辺環境、コミュニティなど様々な“時の経過”が並存する未来への建築である。
改修計画を進めるにあたり、この家に住むことから始めることにした。土地と建築のつながりを知り、コミュニティの一員となり、変化し続ける環境を感じることで、設計プロセスの一部に“住まうこと”を取り入れた。設計者自らが地域の当事者となり建築の経過を考える試みである。
住まうことで既存建築の状態をしっかりと把握し、構造設計者や施工者とともに、既存躯体や建材などの中で活用できる素材を選定することから始めた。既存建築の解体廃材を循環させ、新たな建築材料として活用する。既存土壁や基礎工事で出る残土は新設左官に、既存瓦屋根は新設基礎の一部に、記憶を残しながら”素材のかたちが様々に経過”していく。
築75年という長い歴史を持つこの家には、前住人だけでなく、小さなコミュニティにかかわるすべての人々の記憶が残っている。改修計画は個人の愛着としてではなく、”みんなの愛着”として行うべきであると考えた。計画段階では既存建築を皆で共有し、施工中には地域の子供たち、コミュニティの住人にもプロセスを公開することで、我々の時代の、未来へつながる記憶の蓄積を試みた。
建物自体に目を向けると、我々が生まれる遥か昔に行われた大工や左官職人たちの手仕事の記憶を発見することができる。解体されあらわになった荒壁や軸組からは、その時代における職人たちの技術や息遣いを感じることができる。本計画でも未来の住人が見る先人たちの手仕事の記憶を残したいと考えた。加えて、断熱、構造、雨仕舞など、技術的向上による性能の担保もしっかりと行うこととした。実際に物を作る職人たち、現代の職人ともいえる建物を計画する建築・構造設計者など、各職能の技術の経過である。
1つの空間の中に各時代の”手仕事の記憶が並存”する風景である。
当該建築がある小さなコミュニティにとって東に隣接する公園や、西側を通るローカルパスは大切な愛着を持って接してきた存在である。一方で、既存建築は前庭にのみ開けた開口部を持ち、公園やローカルパスに対しては開口部のない壁や高い生垣により明確な境界を作っていた。本改修では東立面に新たに大開口とリビングから連続する土間テラスを設け、田の字の細かな間仕切壁をやめ一体空間としている。これにより、公園、内部空間、前庭、ローカルパスまでが一体となり、周囲で起こる時間の経過を感じることのできる平面計画とした。
既存家屋の記憶を改修後も感じることができるよう、本計画では2つのDesign Datam=”基準高さ”を考えた。1つ目として開口部は既存家屋の鴨居と同じH1950mmに統一している。2つ目に、既存と新設の境界線として、改修による仕上を既存家屋の天井高さH2300mmまでとし、それよりも上部は既存躯体や下地の現しとしている。これら2つのDesign Datam=”基準高さ”により、既存家屋の身体感覚と、改修後も時を重ね続ける既存躯体の経過が新設空間に並存する計画とした。外構においては既存建築に住まうことにより構築されたコミュニティとの関係性を維持し育てていくために、緩やかな境界線としての土間テラスを計画した。循環する既存建築の素材や経過する既存躯体に直接触れ、新たな記憶の蓄積である新設空間とともに五感を刺激する空間である。